チェックアウト後の清掃は、「名前のない家事」の連続です

民泊や簡易宿所では、チェックアウトから次のチェックインまでの短い時間でのお清掃が求められます。その現場には、「掃除」「洗濯」といった名前のついた家事ではない、名前もない細かな作業が数多く潜んでいます。
そしてオーナー様は、それぞれの思いを胸に、その施設を立ち上げておられます。インテリアの選び方、アメニティの銘柄、香り、備品の配置――
そこには一つひとつ、オーナー様のこだわりがあります。チェックインの瞬間にゲストへ「100%の状態」をお見せしたい、というのはオーナー様にとって当然の思いで、私たちもその気持ちに心から共感しています。
ただ、清掃の現場に立つ者として、正直にお伝えしたいことがあります。
こだわりが度を越すと、清掃スタッフの負担は、想像以上に大きくなるのです。
たとえば、こんなご指示です

「塩胡椒は、この位置に、この並びで置いてほしい」
「ドリップコーヒーは、宿泊人数ぴったりの本数で」
「アメニティも、宿泊人数分をきっかりに」
一つひとつは、どれも素敵な心配りです。でも、こうしたタスクが十や二十と積み重なると、清掃スタッフは確実に疲弊していきます。
では、お聞きします。―― そのこだわり、必要ですか?

私たちは長年、多くの宿の清掃を担当してきて、ある事実に気づきました。
ドリップコーヒーが宿泊人数より多めに置かれていて、それを理由にクレームを言われたゲストは、一人もいません。
塩と胡椒の並びを、ゲストが気に留めたことも、一度もありません。
もちろん、アメニティが宿泊人数に満たないようなことだけは、決して起こしてはなりません。それはこだわりではなく、宿の最低ラインです。しかし、その日のゲストの人数に厳密に合わせる必要はないのです。実際、細部の配置を緩くしたことでレビューが下がった事例は、今まで一度もありません。
ゲストが本当に見ているのは、部屋全体の清潔さ、ベッドの心地よさ、水回りの輝き、そして「大切にされているな」と感じる空気です。塩胡椒の並びは、そのどれにも入っていなかった、というのが現場からの正直な報告です。
こだわりの値段は、「ゲストが気づくか」で決まる

必要なこだわりと、そうでないこだわり。私たちの考える分け方は、とてもシンプルです。
ゲストが気づくか。ゲストが喜ぶか。
この2つに当てはまるこだわりは、手間がかかっても守り抜きます。ゲストの体験を豊かにするからです。
一方で、ゲストが気づかないことにお付き合いする時間が増えると、その分、何かを失います。清掃の時間が足りなくなるからです。
不必要なこだわりが増えたとき、何が起きるか

- 一件あたりの清掃にかかる時間が延びる
- 1日に回せる物件の数が減る
- 「もう少し清掃できた場所」を、掃除しきれないまま次に進むことになる
- そして何より、スタッフが清掃業務そのものを嫌いになっていく
人を大切にするべき宿泊業において、まっさきに疲弊してしまうのが「人」というのは、本末転倒です。そして疲れた手が仕上げた清掃は、きっとゲストに伝わってしまいます。
那須keeperの答え ―「そのこだわり、必要ですか?」と、一緒に考えること

私たちはお掃除会社です。ですから、清掃の基準そのものは、全物件で統一したものを守っています。ベッドメイクも、水回りも、床の掃き払いも、どの宿でも同じ水準。ここをブレさせると、1日に数件を回す現場は回らなくなり、すべての物件の清掃が終わりません。
そのうえで、オーナー様のこだわりについては、ルールで縛るのではなく、一緒に問い直すところから始めます。
「そのこだわり、必要ですか?」
失礼な問いに聞こえるかもしれません。
でも、この問いに向き合うことで、はじめて見えてくることがあります。
ゲストが本当に喜ぶこと。
レビューに響かないこと。
そして、オーナー様ご自身が「ではこれは残そう」「これは外しましょう」と、納得のかたちで決められることです。
問い直した結果、残ったこだわりは、私たちも全力で、最後まで丁寧に守ります。それがお掃除会社としての誠実さだと考えています。
オーナー様のご理解をいただきながら、宿のことを一緒に考え続けること。それが、この業界のこれからの課題でもあると感じています。
宿を育てるのは、人です

建物は、完成したら終わりではありません。むしろ、開業した日からが本当のスタートです。
ゲストをお迎えし、日々レビューをいただき、時には厳しいご指摘も受けとめながら、少しずつ改善を重ねていく。季節ごとに設えを変え、消耗品を見直し、備品をアップデートし、案内文を磨いていく。
そうやって手をかけ続けることで、宿は少しずつ「地域で愛される存在」へと育っていきます。
その成長を、オーナー様のすぐ隣で見守れること。一年目、三年目、五年目と、宿と一緒に歳を重ねていけること。それが、清掃という仕事に携わる私たちの、何にも代えがたい喜びです。
宿泊施設の運営は、「人」で成り立っている

ここが、今回お伝えしたい一番大切なことです。
宿泊施設の運営は、「人」で成り立っています。具体的には、次の四者です。
- ゲスト(お客様)
- 物件のオーナー様
- 地域の方々
- 現地で働いてくださるスタッフ
AIの自動応答も、無人チェックイン機も、ダイナミックプライシングも、確かに便利で、宿泊業の効率は年々上がっています。でも、最終的に宿を支えているのは、いつだって人です。
見落とされがちな、「現地スタッフ」への敬意

残念ながら、利益を追い求めるあまり、現地スタッフをないがしろにしてしまうオーナー様もいらっしゃいます。
清掃費を削る。対応スタッフの単価を下げる。無理なスケジュールを組む。感謝の言葉を伝えない。そうした積み重ねは、必ずどこかで歪みとなって表れます。
ベッドメイクをしてくださる方、水回りを磨いてくださる方、備品を補充してくださる方、鍵を届けてくださる方、トラブル対応に駆けつけてくださる方――こうした方々の一つひとつの仕事の積み重ねが、ゲストの「快適な滞在」を支えています。
現地スタッフが疲弊すれば、当然ながらゲストを気持ちよくお迎えすることはできません。清掃の質は落ち、対応は事務的になり、細やかな気配りが消えていく。そしてそれは必ずレビューに表れ、予約数の減少という形で、オーナー様のもとへ返ってきます。
「塩胡椒の並び」でレビューは下がりません。
けれど、疲れたスタッフの残した清掃は、ゲストに伝わってしまいます。
人を大切にすることは、「コスト」ではなく「投資」

だからこそ、私たちが大切にしているのは、四者全員がハッピーになれる仕組みづくりです。
- 適正な報酬をお支払いすること
- 無理のないスケジュールを組むこと
- 感謝の気持ちを言葉で伝えること
- 困った時には、こちらから声をかけること
- スタッフの意見を、運営に反映させること
こうした一つひとつの姿勢が、結果としてゲストへのサービス品質を高め、レビューを向上させ、リピーターを増やし、オーナー様の収益にもつながっていきます。
人を大切にすることは、決して「コスト」ではありません。宿の未来への「投資」なのです。
テクノロジーの時代だからこそ、忘れてはいけないこと

予約サイトを開けば、世界中の宿がスマートフォンひとつで予約できる時代です。AIによる自動応答も、無人チェックインも、当たり前になりつつあります。
そんな今だからこそ、私たちは声を大にしてお伝えしたい。
最終的に宿を成り立たせているのは、「人」です。
ゲストの笑顔をつくるのも、地域とのつながりを紡ぐのも、宿を毎日ピカピカに保つのも、すべて人の手と心によるものです。この当たり前のことを、忙しさの中で忘れずにいたい――私たち自身への戒めとしても、常に胸に刻んでいます。
おわりに ― 宿泊業は、一人で頑らなくていい
宿泊業が初めての方ほど、不安はたくさんあると思います。
「こんな初歩的なことを聞いてもいいのかな」 「他のオーナーさんはもっとうまくやっているのでは」 「相談できる相手が、周りにいない」
そんな小さな疑問や不安でも、どうか気軽にご相談ください。
私たち那須keeperは、ただ“きれいにするだけ”のお掃除会社ではありません。清掃を通じてオーナー様の夢を一緒に形にし、宿を育て、地域とスタッフとゲストをつなぐパートナーでありたいと思っています。
開業の日だけではなく、その先の一年、三年、五年、そして十年も。宿が少しずつ地域に愛され、ゲストから「また泊まりたい」と言っていただき、現地スタッフが誇りを持って働ける場所へと育っていくこと。
それが、私たち那須keeperにとって、何よりの喜びです。
これからも私たちは、「プラス1%のサービス」を積み重ねながら、オーナー様、ゲスト、地域の皆さま、そして現地スタッフ――
四者全員が笑顔になれる宿づくりをお手伝いしていきます。
宿泊業は、一人で頑らなくていい。
その想いを胸に、今日も一棟一棟の宿と、そして関わってくださるすべての「人」と、真摯に向き合っています。

